食形態を変える前に
食べづらい、飲み込みづらいと感じても、すぐに食形態を変えてしまわないでほしいの。
食形態にはどんなものがあるの?
食形態について考えるには、まずどんな食形態があるのかを知っておく必要があります。
介護現場では、キザミ食やミキサー食などはよく見かけます。これらの食形態は「食べやすさ」を考慮されているはずですが、逆に誤嚥の危険性を高めてしまう場合があります。
食形態の分類
食形態は主に次の4つに分類することができます。
キザミ食/ミキサー食・ペースト食のメリット・デメリット
ほかの方々と同じ食材を使って食事ができ、噛まなくてよいというメリットがありますが、同時にデメリットもあります。
キザミ食
- お口の中でまとまりにくい
食材が小さいため、お口の中でバラバラになってしまい、噛みにくくなります。 - 意図せずのどの方まで入ってしまう
飲み込もうという意識がなくても、のどまで入ってしまうことがあり、誤嚥につながります。 - お口の中に残る食べかすが増える
ほほと歯ぐきの間や、入れ歯と歯ぐきの間、上あごなどに食べかすが入り込みやすく、食後の口腔ケアをしないと細菌の増殖につながります。 - 刻むのが手間
基本的にお食事すべてを細かく刻むため、時間がかかります。
ミキサー食・ペースト食
- お口の中でまとまりにくい
ドロドロとした液状のため、お口の中でまとまりにくくなります。 - 意図せずのどの方まで入ってしまう
飲み込もうという意識がなくても、のどまで入ってしまうことがあり、誤嚥につながります。 - 量が多い
水分を加えてからミキサーにかけるため、常食よりも量が増えてしまいます。少量しか食べられない方は、栄養が十分に摂れない恐れがあります。 - 見た目、味が悪くなる
すべての食材の見た目が同じになり、食感がなくなってしまいます。「おいしさ」が感じられず、食欲不振につながることもあります。
食形態を変えるまでのプロセス
食形態を変更する際には、変更するだけの十分な理由が必要です。
むせる、噛めない、食欲がなくなった…などの理由ですぐに食形態を変更してしまうのは、非常に危険な選択です。
次の3つのプロセスを確認して、食形態変更前にできることを考えましょう。
1. 環境を整える
お食事がスムーズでない原因が、まわりの環境にあることもあります。
前ページの「お食事をするための環境を整える」を参考に、より良い環境をつくりましょう。
また、次ページ以降の「姿勢」、「食器の選び方」なども参考にしてください。
2. どの時点での「食べにくさ」かを見極める
食べることは、噛む、飲み込む、食道を通る…などの一連の流れで成り立っています。どの時点で問題があるのかを把握し、適切な改善策を試みましょう。
見る(認知期)
- 食べようとしない、反応がない
- 食べ物だと認識していない
- お口までスプーンで運んでもお口を開けない
- お食事の準備する音(焼き上がる音)や香り(ごはんの炊ける匂い)、盛り付けの工夫やお食事の習慣づけを行い、五感すべてでお食事であることを認識できる環境をつくるとよいでしょう。
噛む(準備期・口腔期)
- 何度も噛むが、なかなか飲み込まない
- お口の中に食べかすがたまっている
- やわらかいものばかりを食べる
- パサパサ、モサモサしたものは飲み込めない
- お口からボロボロとこぼす
- かたさを調整したものや、適度な粘度があり、まとまりやすいものを
選びましょう。
飲み込む(咽頭期)
- 飲み込む前からむせる
- 飲み込む瞬間にむせる
- 飲み込んだ後、しばらくしてからむせる
- 息苦しそうな感じがある
- 声がガラガラする
- 鼻から出てくる
- とろみ剤を使用したもの、かたちが適度に変化するもの、適度な水分量があるもの、冷たいものなどを選びましょう。
食道を通る(食道期)
- 食後に嘔吐がある
- げっぷが出る
- しゃっくりが出る
- 酸っぱい味がする
- ベタベタせず、食道を通りやすいもの、少量で高栄養のものを選びましょう。
ユニバーサルデザインフード
ユニバーサルデザインフードとは、日常のお食事から介護食まで幅広く使える、食べやすさに配慮した食品です。
レトルト食品や冷凍食品などの調理加工品をはじめ、飲み物やお食事にとろみをつける「とろみ調整食品」などがあります。
そのパッケージには、「かたさ」や「粘度」を日本介護食品協議会の規格に合わせたマークがついています。
「噛む(準備期・口腔期)」に問題がある場合、この4つの区分から適した状態の食品を選んでみてもよいでしょう。
ユニバーサルデザインフードについて一枚にまとめた資料
「ユニバーサルデザインフード」を
ダウンロードできます。
3. 食べ方を工夫する
「交互嚥下」、食事の量や回数、栄養補助食品の活用など、食形態ではなく、「どう食べるか」を工夫することも大切です。
交互嚥下のススメ
お口の機能が低下すると、お口の中やのどの途中に、食べかすがいつまでもはりついてしまうことがあり、それが誤嚥につながってしまうこともあります。
お口やのどに残った食べ物を食道へ送り込むためには、のどごしのよいゼリー状のものやポタージュなどです。スーっと、流れやすくしてくれます。
お食事中にも、ごはんやおかずを召し上がる間、間にゼリー類やとろみをつけたお茶などをはさみ、交互に食べるように工夫してみましょう。
食形態を変える前にできること
確かにお食事の形態は、一人ひとり、その時々の状況に合わせたものを選ぶ必要があります。
しかし、「食べられない」という判断をするのは、とても難しいことです。
お食事の環境や、姿勢、食器など、その方を取り巻く様々な環境を適切に変えることで、安全に食べることができる可能性も残されています。
食べられなくなったからと、すぐに食形態を変えるのではなく、状況を見直し、改善点があるかどうか、しっかりと確認する意識を持ちましょう。専門職(歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士など)による摂食・嚥下機能の評価を通し、何が問題であるかというアドバイスをもらいながら、「食べたいものを食べられる幸せ」を長く味わっていただくための工夫を忘れないでください。
キザミ食とかミキサー食って、介護現場で本当によく見かけるよね。
そうなの。でもね、食形態を変更するのは、食べやすさの面だけではなく、気持ちの面でもマイナスになってしまうことがあるの。見た目ってとっても大切。だから、できるだけその方が「食べたい」と思える状態を維持してほしいの。